実践志向

気付きから実践が始まる詩的な日常、あるいはその生き様

ゆれる交番

この交番はどうやら、ふとした瞬間にゆれるらしい。警官の山田は、最近そのことに気がついた。街の道案内をした時、犯人の情報が無線で流れた時・・・ゆれる。

ーーーまるで感情を持ったように。

パリン!

それは突然、交番の正面のガラスが割れた音。なんの感情だ。なんの思念だ。なにが、ゆれる交番に作用したのか。それは不穏な気もしたし、でもたしかに何かがはじまるワクワクでもあった。

「おいっ!」

そう叫んだのは、頭に金魚鉢をのせて、忘年会のかくし芸の練習をしている巡査部長、通称“ハナゲ”だ。

「おいっ!誰が交番をゆらしてるんだ。これじゃ練習にならないじゃないか。お前、行って捕まえてこい!」

そう言って、ハナゲは自分の持っている銃を手渡した。

が、銃を渡すと見せかけて、なんと銃の引き金をひいたのだった。その行動に後悔は微塵も感じられなかった。ハナゲはハナゲなりのやり方を貫き通せた実感があった。

犯人は倒れた。

まわりの警官たちが犯人を確保した。ハナゲは銃を見つめた。

「これでよかったんだ・・・」

サイレンが鳴り、ハナゲは静かにパトカーを見送った。

「メビウスの輪・・・」

犯人が倒れる寸前、天に向かってつぶやいた一言。それを思い出して、ハナゲは不吉な感情に囚われた。

「あのパトカーは一体これからどこへ向かうのだろう・・・」

「行き先が警察だなんて、そんな保証はどこにもないじゃないか・・・」

「おかしいな・・・この幹線道路、いつまで走ってもどこにもたどり着かないぞ」

「え・・・えーっと・・・俺たち『メビウスの輪』の上走ってるーーー!」

「なんてこった!これじゃ永遠に道路の上を走り続けて、忘年会でかくし芸を披露できないじゃないか!!なんて日だ!!!」

ーーーゆれる交番はきょうも平和だ。

めでたしめでたし。