実践志向

言葉の感覚を大切に。「気付き」から「実践」が始まる詩的な日常。

Re: 意味のない話

「いかんせん洗濯物が多くて…ちょっと待ってて。片付け終わったらすぐに目を通すから。」

女性は電話を切り、三日分の洗濯物を処理してゆく。バスタオルを溜めすぎると干すときに困るのだと、過去に何度も気付いてきたはずなのに、今日もまたバスタオルは主役の座を譲らなかった。

いつも通りの日常。
ありふれた日常。

せっせと慣れた手つきで洗濯物を干し終え、ふたたび電話をかけた。

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「いま読んでみたんだけどさ…」

「うん。どうした?」

「この人なんにもわかってないね。」

「えっ、どうして?」

「『』がしつこいし、“わたし” ⇒ “I” ⇒ “愛”で韻を踏んでるつもりなんだろうけど伝わりづらいし…詩だからって好き勝手やりすぎな気がするんだけど。」

「そう言うと思ったよ。でもね、実はこの詩を書いた人は…」

受話器から聞こえてくる音の温もり。他愛のない会話が続く。女性は相手の温もりを一つずつ確かめるように言葉を続けた。

「あれからもう5年経ったんだね…でも変わんないね。なんにも。」

「そうだね。でも実は変わったことが一つだけあって、それが何だかわかるかな?」

「なんだろう?仕事を辞めて好きなことして生きてる、とか?」

「それはもちろんだけど、もっともっと本質的なことだよ。」

「本質的な…こと?」

「うん。やっと掴めたんだよ。5年前は全くわからなかったんだけどね。」

女性は受話器から伝わる温もりに全神経を集中させた。そして、静かに柔らかな笑みを浮かべながらつぶやいた。

「なるほどね。ありがと。また会えるのを楽しみにしてるね」

懐かしい温もりの時間が終わりを告げた。新しい人生の1ページがこれからまた紡がれてゆく。色彩は5年前よりも豊かだ。

時間の流れが二人の関係を祝福し、優しく静かに後押ししていた。

今宵は夜空がうつくしい。
ただそれだけで十分だった。

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